人件費を考える
人件費は、社員に支払うお給料ばかりではありません。
会社が負担する社会保険料や雇用保険料などの「法定福利費」
さらに忘年会費用などの「厚生費」などを加えた総額になります。
すなわち、社員が、より快適な環境で働くためのさまざまな支出の総額が「人件費」というわけです。
人件費=給与・賞与・法定福利費・厚生費など。
会社の人件費の実態をつかむ
それでは、会社の人件費の実態をつかむ方法を見ていきましょう。
もっとも簡単な方法は、会社の営業所や部門ごとに人件費を配分してみることです。
具体的な例で考えていきましょう。
【例1】
A社には、大きく3つの事業があります。
各事業の売上高と人件費は【表1】のとおりです。
【表1】 [単位:円]
項目/金額・地区 | 総額 | Web事業 | コンサル事業 | 物販事業 |
売上高 | 1,500,000 | 300,000 | 900,000 | 300,000 |
人件費 | 100,000 | 10,000 | 70,000 | 20,000 |
難しい会計知識は不要です。
各事業の売上高と人件費を表に整理するだけです。
この作業だけで、どの事業にどれだけの人件費が支払われているのかが明確になります。
さらに売上高と人件費を比較すると、会社の人件費が適正か、否か、がうっすらと見えてきます。
本来、人件費は、売上高に比例して配分されるものです。
売上が大きいのに、人件費が小さいのでは、社員がやる気を失います。
また、売上が小さいのに人件費が大きければ、人件費の配分が非効率である、といえます。
さらに【表1】をパーセントに置き換えてみましょう。それが【表2】です。
【表2】 [単位:%]
項目/金額・地区 | 総額 | Web事業 | コンサル事業 | 物販事業 |
売上高 | 100 | 20 | 60 | 20 |
人件費 | 100 | 10 | 70 | 20 |
【表2】で、売上高と人件費を対比しながらみていきましょう。
Web事業は、売上高が、全体の20%を占めるのに人件費の配分は、10%に過ぎません。
一方、コンサル事業は、売上高が全体の60%なのに人件費は、全体の70%を占めています。
このように難しい会計知識など使わなくても、人件費の問題点が浮き彫りになります。
単純に人件費と売上高とを比較するだけで、意外な人件費の問題点が発見できます。
労働分配率とは何か
労働分配率とは、「付加価値」に占める「人件費」の割合のことです。
これによって、会社に占める適正な人件費を知ることができます。
この労働分配率を知るためには、「付加価値額」と「人件費」の2つを知る必要があります。
付加価値とは何か
「付加価値」とは、会社が「付(つ)け加えた価値」を意味します。
【例】 商品800円を仕入れ、1,000円で売った。
この例は、仕入業者から800円で買った商品を会社が新たに200円の価値を付け加えて、1,000円でお客さんに売った、と考えることができます。
つまり、仕入商品800円+新たな価値200円=売価1,000円と考えるのです。
この会社が生み出した新たな価値が「付加価値」です。
付加価値とは、会社が新たに生み出した「付け加えた価値」というわけです。
「付加価値額」は、「売上総利益」と同じと考えて下さい。
ざっくりな説明ですが、売上高から仕入高を差し引いた残高が「付加価値」と考えてください。
付加価値=粗利益(売上総利益)
労働分配率を計算する
労働分配率によって、会社に占める適正な人件費を検討することができます。
つまり、売上高と人件費を単純に比較するのではなく「付加価値」というビジネス数字で、
合理的に人件費を考えようというわけです。
労働分配率の計算式は、つぎのとおりです。
労働分配率(%)= (人件費÷付加価値額)×100
B社のデータを使って、労働分配率を計算してみましょう。[単位:千円]
付加価値 10,000 給与 6,000
法定福利費 600 厚生費 200
人件費の総額は、給与・法定福利費・厚生費をすべて加えた総額です。
次のようになります。
人件費総額 6,800=6,000+600+200
したがって、人件費総額は、6,800千円になります。
B社の労働分配率は、次のようになります。
労働分配率 68(%)=(6,800÷10,000)×100
労働分配率が、理解できたところで【表2】に新たに仕入高と付加価値を加えます。
労働分配率を計算します。それが【表3】です。
【表3】
項目/金額・地区 | 総額 | Web事業 | コンサル事業 | 物販事業 |
売上高 | 1,500,000 | 300,000 | 900,000 | 300,000 |
仕入高 | 1,350,000 | 260,000 | 820,000 | 270,000 |
付加価値 | 150,000 | 40,000 | 80,000 | 30,000 |
人件費 | 100,000 | 10,000 | 70,000 | 20,000 |
労働分配率(%) | 66,6 | 25 | 87.5 | 66.7 |
A社全体の労働分配率が、66.6%です。
この数字を基準に各事業の労働分配率をみていきましょう。
Web事業は、25%と会社全体の基準を大きく下回っています。
一方で、コンサル事業は、87.5%と基準を大きく上回っています。
物販事業は、会社全体の基準と同じ数字です。
Web事業の会社全体に占める売上高は【表2】でわかるとおり20%です。
しかし、人件費は、会社全体に占める10%に過ぎません。
さらに労働分配率も大幅に会社の基準を下回っています。
Web事業の人件費は、少ないといえそうです。人件費を増やすべきでしょう。
つまり、Web事業部の社員の給与や賞与を増額すべきです。
同じ要領で、コンサル事業をみていきましょう。
コンサル事業の全体に占める売上高は【表2】から60%です。
人件費は、会社全体に占める70%です。
労働分配率は、会社の基準を大幅に上回る87.5%です。
コンサル事業部の人件費は、会社全体のバランスを考えたとき、やや多いようです。
コンサル事業部の社員の給与や賞与を見直すべきでしょう。
[人件費を考えるダイジェスト講義]